新型コロナウイルス、スイスの全寮制学校では特例づくしで対応中

海外からの生徒が多い学校ならではの「春休みの危機」

 スイスには世界各地から生徒が集まるボーディングスクールが多くあります。生徒の多くがスイス国外から入学しているため、今回のコロナウイルスによる影響はとても大きいようです。というのも、春休みなど長期休暇には両親の待つ自国へ帰国する生徒も多くおり、出身地が学校から近ければ毎週末実家へ帰省する生徒もいるからです。現在ハイリスクとされている地域や国出身の児童生徒は、実家への行き来が簡単にできなくなってしまいました。

ボーディングスクールは何をもとに対策をとっているの?

 基本的にスイスにある各ボーディングスクールでは、スイス連邦からの公式発表だけを参考にしているわけではなく、寄宿学校連盟(Boarding Schools’ Association)やイギリスの国民保健サービスNHS(National Health Service)、スイスジュネーブに本部がある世界保健機関WHO(World Health Organization)などスイス以外の国・組織の助言・方針も参考にしながら、各学校ごとに異なる対応策を検討・実施しています。

 各学校の定める「ハイリスク国」も様々な情報リソースから判断し、感染リスク国の指定を独自に設定しています。

ハイリスク国から来ている生徒はどうすればいいの?

 先ほどご説明した通り、通常ボーディングスクールの生徒は春休みには自国へ帰国しますが、今年は大きく分けて二つの方法が取られています。

 まずひとつめ。長期休暇には閉鎖する学生寮を、今年だけ特別に生徒へ開放し、スイス国内での継続滞在を強く勧めている学校がでてきました。というのも、寄宿学校連盟などの定める「ハイリスク国」へ生徒が渡航した場合、スイスを含む低リスク国へ帰ってきた際には14日間の自己隔離期間が必要となり、その間はホテル滞在などが必要となるため、新学期の始まりに間に合わない可能性があるからです。

 長い学期をスイスの全寮制学校ですごし、やっと春休みに家族の待つ自国へ帰れると思っていた生徒にとっては、ちょっと寂しくて厳しい状況かもしれませんね。

 ちなみにスイス保健局の指定する「ハイリスク国*」に日本が追加されたのは2020年3月4日。これにともない、多くの寄宿学校が、日本からの渡航者に14日間の自己隔離期間を設けることに踏み切りました。

* 3月9日、スイス連邦内務省保健局は、公式ホームページから新型コロナウイルス感染地域と認識している国や地域の記載(3月4日、日本が追加で記載されたリスト)を削除しました。理由は、「世界のほぼすべての地域で新型コロナウイルスに感染するリスクがあるため」とのことです。

 そしてふたつめ。学校閉鎖に踏み切り、生徒を帰国させる方針に切り替えた学校が多く出てきています。3月13日正午時点までにそう決定したのはタシス・アメリカンスクール校(The American School In Switzerland, TASIS)、エイグロン・カレッジ校(Aiglon College)、レザン・アメリカンスクール校(Leysin American School, LAS)、インスティテュート・モンタナ・ツーゲルベルグ校(Institut Montana Zugerberg)など。これらの学校では、学校閉鎖期間中の生徒の学習に影響が出ないよう、オンラインツールを利用した遠隔授業が実施されることとなっています。

刻々と変わる状況に、対策を迅速・柔軟に変更する学校も

 刻々と変わる状況を追いかけながら、一度決定した対策を変更する学校もでてきています。これにより春休みの予定を決めるのに時間がかかる家庭もあるようですが、状況を見極めて今のベストは何かを判断するスピード感はさすが名門ボーディングスクールと感じます。

レザン・アメリカンスクール校

 例えばレザン・アメリカンスクール校では、3月初旬では今年の春休み期間中も寮生の滞在を可能としていました。寮に滞在するには2週間の春休みで3,000フランが必要で、学校としてはハイリスク国への帰国を予定している生徒へは、このプログラムを利用して、スイスに継続滞在することを勧めていました。ですが3月12日、スイスでのコロナウィルス感染拡大を受けて、以下の方針に変更しました。

  ・寮生は、できるかぎり早急に帰国すること(3月21日までに出発)
  ・スイス滞在プログラムの実施は中止。万が一、生徒が自国に帰国できない状況が発生した場合、LASが滞在先を提供。
  ・4月6日(月)より、全ての授業はオンライン上のツールを利用して遠隔授業を実施
  ・暫定的に、4月11日(土)が開校予定日

タシス・アメリカンスクール校

 別の例ですが、タシス・アメリカンスクール校では、学校の寮は閉寮し、かわりにレ・ゼルフ・キャンプ専門校(Les Elfes International)に生徒が滞在できるプログラムを特別に準備していました。ですがその後の感染者拡大の現状を受けてその特例措置はキャンセルに。また、今学期を早めに終わらせるという方法は結局とらず、予定通り4月4日まで授業を行い、4月13日までに児童生徒を帰国させ、16日からは遠隔授業に切り替えるという方針となりました。

親も訪問禁止!?徹底した制度で生徒を守る学校も

ラ・ガレン校

 こちらもボーディングスクールならではの対応なのが、ラ・ガレン校(La Garenne International School)などに見られる寮生への「面会禁止」措置。当初は訪問者の過去の滞在履歴(どの国に滞在していたのか)を証明できれば訪問可としていましたが、警戒レベルが上がってからは、面会全面禁止となりました。

 学期末までは両親・保護者ですら面会・訪問禁止とすることで、校内はきちんと予防対策をしていると確認できる学校関係者のみが入る空間に隔離できます。そのためラ・ガレン校も今学期は特別少し早めの日程で修了とするそう。生徒は自国・自宅に帰るもよし、イースター休暇まで学校に留まるもよしと、柔軟かつしっかりとした対応を臨機応変にしているようでした。

名門校ル・ロゼ校も手堅い対応

ル・ロゼ校

 そして世界的に有名なスイスのボーディングスクールのひとつル・ロゼ校(Le Rosey)の対応はどうでしょうか。

 ロゼアン(ル・ロゼの生徒)が風邪に似た症状を示した場合は、すぐにスイス保健当局と連絡を取っているそう。そしてその児童生徒は予防措置として同級生から隔離されます。もちろん児童生徒の手洗い指導や正しい予防の知識についても授業を行い、週末に生徒が退寮する時には消毒剤を提供するなど、対策はばっちり。
 また、生徒を週末にお迎えにくる保護者の中で、過去14日間に影響を受けた国*のいずれかを通過した方は、校舎への立ち寄りを控えてもらうよう通達もされています。

*2020年3月10日時点で該当する国は、中国、韓国、シンガポール、日本、イラン、北イタリア(ロンバルディア、ピエモンテ、およびベネト)となっています。

 また、春休みがおわって次の学期が始まる前に、各家族には休暇滞在先の詳細を記入するフォームが配布されます。ロゼアンが学校に戻ることを認められるには、影響を受けていない国にて入寮前の14日間過ごさなければなりません。さらに、学期の最初の2週間は、学校のすべてのメンバーの体温を定期的にチェックします。スイス国外への旅行、遠足、週末を制限する措置は、状況に応じて決定されます。

 このあたりの対応は他校が行っている対策とほぼ同じような感じといえます。

今回の新型コロナウイルス、対策が抜きん出いていたのはこの2校

インスティテュート・モンタナ・ツーゲルベルグ校

 各学校の対応はどこも素晴らしかったですが、どこよりも早くコロナウィルスについてご家族への連絡を開始し、しっかりとした対応をしていると感じられたのはインスティテュート・モンタナ・ツーゲルベルグ校とエイグロン・カレッジ校でした。この2校はどこよりも早く方針を打ち出していましたし、生徒やご家族からの反発が出ても自分達の決定した対応策の必要性を丁寧に説明するようにしていました。インスティテュート・モンタナ・ツーゲルベルグ校は、リスクレベルの段階に応じた対処を行いながら学校の計画・方針を早い段階から示し、学校閉鎖という決断になった場合でもご家族が事前に準備をできるよう、配慮している様子がうかがえました。

エイグロン・カレッジ校

 エイグロン・カレッジ校では、生徒とスタッフがいない間(学校閉鎖期間中)、校内を徹底洗浄する、とのアナウンスも。また、エイグロン校はコロナウィルス対策方針を説明する専用ページを設け、常に情報を更新するなど、徹底した情報共有を心掛けていた印象です。また、学校閉鎖を決定した後、春学期に生徒がスイスに戻れない場合を想定し、IB試験等、生徒の進学に重要な公式試験をどのように実施していくのか、既に関連機関との話し合いを進めています。

 今回のような感染症の拡大は異例中の異例ですが、このような時だからこそみえる判断力・対応力というのも、ぜひ今後の学校選びの参考になさってほしいところです。

生徒へしっかり正しい対応を教え込むのが第一

 基本的にスイスでのボーディングスクールでは、トイレで児童生徒はきちんと手洗いをし、消毒液を使用しています。弊社留学担当者が校内での対策内容を問い合わせたところ、ラ・ガレン校の理事長が直々に、指導している手洗い方法を動画に収めてくれました。学校の各所にウイルスの正しい予防知識などを促すポスターが貼られ、学校から生徒へも基本知識の指導が行われています。

 新型肺炎とはいっても、予防策の大事なところは普通の風邪やインフルエンザの予防と同じ。ここでしっかりとウイルス対策を正しく学ぶことで、将来も役に立つ知識・行動規範となります。各生徒もそんな基本理念を理解し、しっかり行動にうつしているのが印象的でした。

こんな時こそ現地在住スタッフだからこそできるサポートを

 今回のコロナウイルス予防策として、スイス連邦は早い段階からイベント中止などの決定を下していました。このような世界的大流行の中にあっても、比較的落ち着いて行動している人が多くみられるスイス。そのスイスの中でもさらに徹底して生徒のことを第一に考えるボーディングスクールへ子どもを通わせていてよかったと思う保護者の方も多いようです。

 スイス留学.comでは、スイス留学中のお子さんのサポートも行っており、こうした有事の際にも現地から学校へ駆けつけ、日本語で直接お子さんの対応をすることができます。当社ではお子さんが通う学校の対応を確認し、親御様への連絡・アドバイス・学校と親御様間のやり取り補助、また航空券の変更・新規手配などを行いました。

 また悲しいことですが、ヨーロッパなどでもアジア人差別があると日本で報道されたようです。ニュースでは過激な一面が取り立たされますが、実際スイスに住んでいる私たちの生の声で肌感覚や実体験も保護者のみなさんへお伝えすることができます。

 今回、スイスのボーディングスクールのウインターキャンプに2週間参加されたお子さんの保護者の方からも、サポートに対する声が届いていますのでぜひご覧ください。

 まだまだ変化していきそうな新型コロナウイルスに関する世界情勢。正しい情報をしかるべき機関から情報収集し、根拠のない噂や偏見にまどわされず、落ち着いて日常生活をおくることに重点をおいていきたいですね。この事態が一刻も早く収束に向かうことを願ってやみません。

<参考サイト>
BSA (Boarding Schools’ Association)
http://www.boarding.org.uk/ (英)

スイス留学.com
https://swiss-ryugaku.com/

** 記載の情報は2020年3月13日15時時点のものです
** 当記事は状況が刻一刻と変わっていく中でのボーディングスクールの対応の様子をお知らせするもので、こちらの情報が最新のものとは限りませんのでご承知おきください

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