スイスの知られざる吊り橋特集

 スイス各地の山の中に、趣向をこらした吊り橋が点在しているのをご存知ですか。古くから、深い谷を越え、村と村をつなぐ橋は、交通の要所として重要な存在でした。近年では、観光スポットとしても注目を集めています。

 今回は、スイスが世界に誇る歩行者用吊り橋の中から、スイス情報.com が「歩行者用吊り橋ベスト5」をご紹介します。

スイスの自然環境と吊り橋の関係

 世界でも有数の橋大国、スイス。数多くの石橋や木造橋など貴重な歴史遺産を今でもあちらこちらで見ることができますが、歩行者用吊り橋に限っても、150mを超える長い橋が少なくとも9つあります。

 その理由は、やはり山や谷の多い自然環境にあるといえるでしょう。昔から村と村をつなぐ橋はスイス人の生活に欠かせないもの、特に山岳部では、今日も子どもたちの通学路としても使われています。また、政治的、軍事的にも重要な存在で、冷戦時代には敵の侵入を防ぐために、最近まで爆薬が備え付けられていた橋もありました。

 そんな自然環境ゆえに、橋を作る技術も進んでいます。後述するチャールズ・クオーネン吊り橋(Charles Kuonen Hängebrücke)の建設を担当したスイスロープ(Swissrope AG)は、昨年国際的なスキーエリア・テスト(Skiarea Test)の技術部門で、金賞を受賞。同社はヘリコプターや特別な機材を用いながら、わずか2か月半で橋を完成させました。揺れを軽減する最新技術も盛り込むなど、山を知り尽くした専門家のなせる技です。

スイスは、橋建設におけるトップランナー

 スイス人技術者の活躍ぶりは、国内にとどまりません。有名なニューヨークのジョージ・ワシントン橋やサンフランシスコのゴールデンゲート橋の建設にも、オットマール ・アンマン(Othmar Ammann, 1879-1965)というスイス人技師が関わりました。

 また、ベルン出身のロベール・マイヤール(Robert Maillart, 1872-1940)は、スイス各地にシンプルで実用的な鉄筋コンクリートの橋をいくつも残しました。そのアーチ形の美しさは、世界中の橋の専門家を虜にしているほどです。

 最近では、トニ・ルッティマン(Toni Rüttimann, 1967-)が、中南米やアジアの開発途上国で、地元の人々のための橋作りに情熱を注いでおり、これまでに作った橋の数は760以上。

 小さな国スイスですが、このように橋の建設においては、世界各地で重要な役割を果たしていることが伺えます。

 では、スイスの絶景とスリルを味わえる「歩行者用吊り橋ベスト5」をご紹介しましょう。

ギネス記録認定、世界で最も長い吊り橋

 ヴァレー州ランダ(Randa, 仏:Valais / 独:Wallis)にあるチャールズ・クオーネン吊り橋の長さは494mで、ギネスの「世界最長の歩行者用吊り橋」にも認定済み。

 ランダから橋へは2時間程度で歩いて行けますが、ハイキング上級者には「オイローパヴェーグ(Europaweg)」もおすすめです。グレェッヘン(Grächen)とツェルマット(Zermatt)を結ぶルートは33.6㎞で2日間に渡り、マッターホルン(Matterhorn)やベルン・アルプスが眺められます(※ 現在、一部通行止め。6月23日に開通予定)。

 床が格子状で下が透けて見え、距離も半キロ近くと長いことから、スリリングな体験ができること間違いないでしょう。ツェルマット観光局は、「高所恐怖症でない人向け」とアドバイスしています。

アトラクションもあり、ファミリーで楽しめる橋

 家族連れに人気なのは、シュビーツ州(Schwyz)ザッテル(Sattel)にある、ライファイゼン・スカイウォーク(Raiffeisen Skywalk)。標高1,200mで、山頂のモステルベルグ(Mostelberg)から橋までは10分程度。橋の幅90cm、長さ374mと決して短くありませんが、橋の上には幼児やベビーカーの姿も見かけます。横揺れにはご用心ください。

 山頂からは初級~中級の様々なハイキングルートが整備されています。小さな子供連れには周遊コース。橋を渡ってヘレンボーデン(Herrenboden)を経由し、モステルベルグまで戻るコースですが、途中に遊び場やレストランもあるため、子どもたちも飽きずに歩けることでしょう。

 夏には、巨大トランポリンやスライダーコースターなどのアクティビティも充実。橋を渡らなくても、家族で楽しめること請け合いです。

ヨーロッパで最も高所にある、雪山の橋

 スイスならではの、白い雪をかぶった山並みのパノラマを楽しみたいのなら、オプヴァルデン準州エンゲルベルグ(Engelberg, Obwalden)にある、ティトリス・クリフ・ウォーク(Titlis Cliff Walk)はいかがでしょうか。

 ルツェルン(Luzern)からエンゲルベルグまで電車で約45分。そこから徒歩(約10分)か無料のシャトルバスに乗り、ケーブルカー乗り場へ。30分かけて、標高3,020mの山頂駅へ登ります。さらに雪の上を10分程歩くと、長さ100m、幅1mの吊り橋に到着。しっかりした作りで、ほとんど揺れがなく、2人交差する余裕もあります。

 今年は5月末でもまだ雪が残り、スキーを楽しむ人の姿が見られました。3,000mという高所でもあり、雪の上を歩くことから、靴や上着などしっかりした寒さ対策をとられることをしてお出かけ下さい。

世界でも珍しい、2つの山頂をつなぐ橋

 同じく3,000m級の山にある、ピーク・ウォーク・バイ・ティソ(Peak Walk By Tissot)。少々アクセスしにくい場所にありますが、行けば360度広がる絶景の迫力に魅了されることでしょう。天気の条件が揃えば、マッターホルンやユングフラウ(Jungfrau)の山並みも望めます。

 ベルン経由でグシュタード(Gstaad)まで、またはローザンヌ(Lausanne)経由でレ・ディアブルレ(Les Diablerets)まで向かい、そこからバスでゴンドラ乗り場へ。道中も、スイスの山村らしい家々や山並みを楽しめます。

 小さい山頂「ビューポイント」と、それより少し高い山頂「セ・ルージュ(Scex Rouge, 2,971m)」をつなぐ長さ107mの橋、頑丈で大きな揺れも感じません。ただ幅80cmと、交差するのがやっとという狭さですので、譲り合って渡りましょう。ティトリスと同じく高所のため、天候の急変にもご注意ください。

地球温暖化を肌で感じられる橋

 最後にご紹介するのは、アルプスの氷河と吊り橋の醍醐味の両方を味わえる、トリフト橋(Triftbrücke)。エメラルド色の氷河湖を眺めながら、長さ170m、幅80cmの狭い橋を渡ります。

 アクセスはベルン州ネッセンタル(Nessental)。ゴンドラに乗り、さらに1時間半程歩いた先に、この橋があります。氷河の融解の影響でできた湖に架かる橋からの眺めは格別。忘れられない思い出となることは間違いありません。今年はまだ雪が残り、ゴンドラ運行は6月9日頃に開始予定です。

 今ではスリル満点のアトラクションとなって、多くのハイカーや観光客から人気を集めているトリフト橋。2009年に山小屋までのアクセスを確保するため、氷河の末端部に設置されました。氷河の上を歩いて行けた20年前と比べると、スイスのアルプスの山奥に地球温暖化の影響が出ていることを肌で感じられるトレッキングになることでしょう。

 いかがでしたか。意外と知られていないスイスの吊り橋、忍耐を試されるような長いものから、高所のパノラマを堪能できるものまで、多岐に渡ります。これらは、まさにスイスの確かな技術の賜物です。

 この夏、ちょっとスリルを味わえる吊り橋体験をしにハイキングに挑戦してみませんか。

<参考文献>
Milo Häfliger
Hängebrückenführer Schweiz
37 abenteurliche Wanderungen in schwindelerregender Höhe
Werd&Weber Verlag AG (2015)
ISBN:9783038180494

<参照元>
Zermatt Matterhorn
Sattel Hochstuckli
TITLIS Engelberg
Peak Walk by Tissot – Glacier 3000
Grimselwelt Berner Oberland
Charles Kuonen Hängebrücke
Mostelberg 

執筆:Asuka Shimoda
編集:Yoriko Hess, Yuko Kamata
写真:Yuko Kamata

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