スイス絵本作家マーカス・フィスターさん自薦の作品5選

 キラキラのうろこを持つ魚の絵が印象的な「にじいろのさかな」シリーズでおなじみの、スイス人絵本作家マーカス・フィスター(Marcus Pfister)さん。

 30年以上に渡り世界中の子どもたちを魅了し続けています。今回は、彼自身が推奨する著作を5冊ご紹介します。お子さまへの読み聞かせにいかがですか。

マーカス・フィスターさんってどんな人?

 フィスターさんは、1960年ベルン生まれ。地元の美術工芸学校を卒業後、チューリッヒの会社にグラフィックデザイナーとして就職しました。数年間の勤務後、アメリカ、カナダ、メキシコを6か月間旅行。そこで「人生は仕事だけではない。もっとアーティストとしての時間を作ろう!」と一念発起します。

 帰国後はフリーランスのデザイナーとして活動しながら、初めての著作となる「ねぼすけふくろうちゃん(Die müde Eule)」の構想を練ります。これがスイスの出版社の目に留まり、1986年に同名の絵本を刊行。以来、グラフィックデザイナー、イラストレーター、絵本作家の“3足のわらじ”生活が始まりました。

「にじいろのさかな」で世界的な好評を得る

 転換点となったのは、1992年刊行の「にじいろのさかな(Der Regenbogenfisch)」が、翌年のイタリア・ボローニャ国際児童図書展でエルバ賞を受賞したこと。子どもたちが選ぶこの賞を契機に世界各地の言語に翻訳され、またたく間にベストセラーとなりシリーズ化されたのです。

 これを機に、本格的な絵本作家生活に入ったフィスターさん。これまでの著作は「ペンギンピート(Pinguin Pit)」や「うさぎのホッパー(Hoppel)」など、60冊を超えます。昨年は「にじいろのさかな」刊行25周年を記念して、日本を訪問。名古屋や東京で原画展やサイン会を行ったのも記憶に新しいところです。

 では、そんなフィスターさんお気に入りの著作をご紹介しましょう。

にじいろのさかな (Der Regenbogenfisch)

 キラキラのうろこを持つ、「にじいろのさかな」。あるとき、青色の小さい魚が「そのうろこを1枚分けてくれない?」と言ってきて……。

 自分の大切なものを、人に分ける難しさ。小さい子どもなら、おもちゃの貸し借りの場面で思い当たることではないでしょうか。この絵本は、「人とシェアすることで、もっと幸せな気持ちになれるよ」とやさしく語りかけてくれます。

 付け加えるなら、フィスターさんにとっても、シリーズ最初の1冊は特別な存在。3冊目の「にじいろのさかなとおおくじら(Der Regenbogenfisch stiftet Frieden)」もお気に入りで、自分の子ども時代を思い出すのだそうです。

ミロとまほうのいし (Mats und die Wundersteine)

 ゴツゴツした岩の島に住む、ねずみのミロ。岩の隙間に、ピカピカ光る石を見つけました。仲間のねずみもすっかり魅了され、みんな「その石が欲しい!」と言い出します。

 この「ミロ」シリーズは、「しあわせなおわり」と「かなしいおわり」がある珍しい絵本。「長い間、環境問題について描きたいと思っていた」と言うフィスターさん、簡単に解決できる問題ではないため、2つの結末を用意したのだそう。

 光る石をめぐるねずみたちの行動は、人間の欲望と消費社会の様子を描いたようにも見え、自然の恵みを頂くことへの感謝の気持ちを思い出させてくれます。「6~9歳くらいの子どもたちに読んでほしい」とのこと。

ミロとしましまねずみ (Mats und die Streifenmäuse)

 ミロは、おじいさんの話していた、言葉の通じない「しましまねずみ」の住む島をめざし、仲間と一緒にいかだで旅立ちます。島に着くと……。

 単なる冒険ものかと思いきや、話は予想外の展開に。「国や文化の違いを受け入れることをテーマにしたいと思い、この絵本を描きました」とフィスターさん。この本のお話も、途中から2つに分かれていきます。

 未知の相手に対し、友好的に接するのか、それとも恐怖を感じて接触を断るのか。それにより、お互いの関係が大きく変わっていってしまうことを巧みに描いています。国同士の関係として読むこともでき、大人でも考えさせられる作品です。

Ava’s Poppy (Lisas Mohnblume)

 アヴァは野原で真っ赤なポピーの花を見つけます。「あなたって、とってもきれいね! お友達になってもいい?」。大事に面倒をみてきたけれど、あるとき花びらが落ちてしまいます。

 印象的なのは、表紙の大きなポピーの花。花弁の模様まで再現した繊細な表現に目を奪われます。フィスターさんは、すべてのパーツをボール紙で作り、それぞれに色をつけスタンプのように押して、絵のページを作っていったそうです。

 残念ながらまだ日本語版は出ていませんが、英語版の文章は短くまとめられており、英語学習のいい教材にもなりそう。シンプルなストーリーは、幼稚園くらいの子どもたちにも伝わるはずです。

Weisst du, was Glück ist?

 ねずみのゾーイは、友達のレオと野原で凧揚げをしているとき、ふと「幸せってなんだろう?」。突然の問いかけに、レオは「うーん」と考え込み……。

 「ミロ」シリーズを描き終えてから10年以上が経過、「もう一度ねずみを主人公に、今度は違った技術で描いてみたかった」とフィスターさん。高度に工業化された現代社会で、いま一度、自然の中にある「小さな不思議」を見つめ直そうというメッセージが込められています。

 たくさん散りばめられた「幸せな瞬間」は、自身の子ども時代や4人の子どもたちとの思い出からヒントを得たといいます。幸せが身近にあることを思い出させ、読み終えた後、心が温まる作品です。

 にじんだ水彩画で描かれたフィスターさんの絵本はふんわりした印象ですが、ストーリーは考えさせられるものばかり。作品を通じて、子どもたちだけでなく大人にも、人間関係や現代社会のあり方を見直すきっかけを与えてくれます。


 読書の秋のお供に、お子さまへのプレゼントに、ぜひスイス生まれの絵本を選んでみてください。きっと新しい発見があるはずです!

本ページでご紹介した著作はこちら

今回、マーカス・フィスターさんが推奨する著作5冊は、アマゾンや大手書店などでお買い求めいただけます。

  にじいろのさかな
 ミロとまほうのいし
 ミロとしましまねずみ
  Ava’s Poppy
  Weisst du, was Glück ist?

<取材協力・写真提供>
Marcus Pfister
www.marcuspfister.ch

NordSüd Verlag AG
nord-sued.com

取材・編集: Asuka Shimoda, Yuko Kamata

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