日本とスイスの国交が樹立されて152年。スイスに住む日本人は、伝統文化や習慣を次世代へ脈々と繋げ続けています。最近では日本に興味を持つスイス人が増え、独自の視点で「日本」を楽しむようになりました。ここではそんな「スイスで見つけた日本」を紹介していきます。
先日、スイス日本協会主催の『日本語による朗読会』が開催されました。出演者は、日本語教師やナレーションの仕事をされているGinsig恭子さん、東京とニューヨークで女優として活動されていたRaassゆりさん、ヴァイオリニストの坪井悠佳さん。
写真はGinsig恭子さん。このコラムのために、チューリッヒにある聖母教会(Fraumünster)の中庭で朗読を再現してくださいました。
ヴァイオリンとのコラボレーション
会場はチューリッヒのコミュニティーセンター(Karl der Grosse)にある小ホール。最大収容人数である約60人が訪れ、そのうち約8割はスイス人でした。
正面スクリーンにドイツ語字幕が映され、照明が落とされ、そしてステージにスポットライトが当てられました。まずヴァイオリンの演奏があり、ここで観客は一瞬にして朗読の世界へ。ヴァイオリンはその後も効果音として数秒ずつ、場面が変わるときなどに挟み込まれます。
声だけによる演技
朗読中は音楽が一切なく、静寂の中に朗読者の声が響きます。演目は宮沢賢治作の『祭の晩』と『よだかの星』。各20分ほどの朗読は、登場人物たちの性格に合わせた声、話し方、スピード、間の取り方、抑揚などを駆使した「声だけによる演技の場」でした。
動作は感情が溢れた結果のようなもので、あくまでも声による表現が主体。安定した語り手のパートと、生き生きした登場人物のパートが織りなす「声だけによる演技」に、スイス人も日本人も引き込まれます。
スイスで聞く日本語だからこそ心に響く
どんなに家族や友人と日本語で話しても、日本の映画やテレビを見ても、日本にいるときに比べると、スイスで日本語を聞く時間は圧倒的に少ないのが実情です。そのような環境で耳に入ってくる日本語は、どこか懐かしさや安心感を感じさせてくれるもの。日本人の観客が朗読に引き込まれた理由の1つでしょう。
声が伝える感情や温度を感じる
スイスにいても、日本にいても、感情が込められた日本語を「聞く」機会は少ないかもしれません。生活や映画・ドラマでは映像にも意識が向きますし、歌ではメロディーに意識が向くからです。その点、朗読では声だけに意識が集中するため、声が伝える感情や温度などをダイレクトに感じることができるのです。
声と日本語の音が想像力を養う
スイスでも日本語による日本人の子どもへの読み聞かせがあります。人の声が持つ温かさ、日本語の音が持つやわらかさ、やさしさ、情緒などが子どもの想像力を養うという理由で教育的に重要な役割を担っているとのこと。
大人にとっても同様の効果があるため、朗読は読書と一味違う楽しみを与えてくれるといえましょう。大人がオーディオブックで物語を聞きながら眠りにつく、という最近の現象もうなずけます。
朗読の魅力、声の伝達力
一説によると、理解やコミュニケーションにおいて言葉が7%、声が38%、表情と動作が55%の伝達力を持つのだそうです。
人は相手の表情や動作から判断しがちですが、声は脳や記憶、感覚などに直接訴えかけるためか、声から本能的に何かを感じるのだと言われています。
物語の細部を、判断ではなく、本能的に感じることができるのも朗読の魅力の一つかもしれません。
言語を超えた、声が持つ力
スイス人の観客の中には日本語に精通している人もいましたが、多くの日本語を得意としない人たちはドイツ語字幕で物語を追いました。
あるスイス人の感想が「生まれて初めて朗読を体験した。普段は物語に触れることもないけれど、なんか感動した」だったところを見ると、日本語を解さない人にも「声」が何かを伝えている、と言えるのではないでしょうか。
子どもにとっては日本語や情緒、想像力を養う教育に、大人にとっては癒しや新たな楽しみになりうる朗読。この機会にぜひお試しください。
視聴・朗読音声 を聞くことができます。
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