言葉や生活習慣が異なる国で仕事をするには、多くの苦労が伴います。一方で、新たな世界での挑戦は刺激に満ち、自分の可能性を広げる機会や、やりがいにもつながります。
今月のコラムでは、在スイス日本国大使館で両国の国交や在留邦人の安全に貢献する、城戸 禎久 さん を紹介します。
城戸さんのお仕事について詳しく教えてください。
Q : スイスへいらっしゃるまでどちらで勤務されていましたか。
フランス、ベルギー、フィリピンの日本国大使館勤務を経て、今年1月にベルンの在スイス日本国大使館・領事部に着任しました。
Q : 大使館の領事部の業務とは?
スイスにお住まいの邦人の方に対しては、パスポートや証明書などの交付、戸籍・国籍関係届出の受理、在外選挙(選挙権の行使の確保)、日本からの旅行者ですとパスポート盗難・紛失の対応などの邦人援護です。また、日本へ旅行される外国人旅行者のためのビザの発給などの業務も行っています。
Q : 日本大使館の領事として、いつも大事にしていることはありますか。
変な例えかもしれませんが、領事の仕事というのは「壊れていない自動販売機」みたいなものだと思うんです。
例えば、自動販売機に90円を投入しても100円のジュースはでませんし、120円を投入すればきちんと20円は戻ります。正しい商品やサービスを提供するのと同様に、「当たり前のことをきちんとする」ということが大事だと思います。
Q : 領事になるために必要なメンタリティ、スキル、経験とは何ですか。
様々な方々とのやり取りが多いので、「コミュニケーション能力」や積極的に助け合いながら同じ目標に向かって任務を遂行できる「協調性」も必要ですね。
あと、領事という仕事は機械的で感情がないと思われがちですが、普段から親身になって相談を受けるよう心がけています。ただし、感情を移入しすぎると適切な判断もできなくなりますので、常に客観的に考えて、対応ができるメンタリティを持つことも大切です。
気になるスイス在留邦人や旅行者向けの安全情報についてお伺いします。
Q : スイス国内での邦人被害状況について教えてください。
スイスにおける犯罪被害件数はヨーロッパの主要都市ロンドンやパリと比べると、非常に低いです。しかし、低いからといって、犯罪がゼロではありません。
「スイスは治安が良いと思っていました」という声を被害者の方からよく聞きますが、「治安が良い=犯罪がない」と誤解をされている方も多くいらっしゃいます。このような誤解や油断が被害につながることもありますので「自分の身は自分で守る」という意識をしっかり持っておくことが大切です。
Q : 現在大使館で行っている安全対策はありますか。
現時点では特にありません。大使館とスイスの治安当局間で定期的な情報交換を行っているので、何かあれば大使館から一斉メールなどで皆さんに注意を喚起しています。
3か月未満の短期渡航者(海外旅行者・出張者)には、当館や外務省ホームページにある「たびレジ」のご利用をお勧めします。事前に登録をしておけば、いざという時の滞在先での緊急情報や安全情報をメールで受け取ることができるので、その情報を元に、速やかにその場を離れるなどして安全確保をしていただきたいですね。
最近、ロンドンやパリでのテロが発生していますので、スイス在住の方でも、近隣国に行かれる際には是非登録してください。
Q : その他の活動について詳しく教えてください。
情報をいかに正しく伝えるかを心がけています。当館での各種手続きで、人づてに聞いた情報を元に入手した書類が正しくなかったというのが、よくあるパターンです。
各申請での必要書類をはじめ、国際結婚や出産が増加している中で、国籍に関して言えば、国籍法、出生や婚姻の発生年月日、さらに婚姻相手の国籍など様々な要素で適用される法律も微妙に変わります。
大使館のみでは解決できない場合もありますが、信頼できる公的機関などの問合せ先などアドバイスはできますので、大使館に照会していただきたいです。
昨年度の海外在留邦人数調査統計によれば、国別在留邦人数上位50位のうちスイスは上位21位、在留邦人数は10,614人(前年比+2.9%)となっており、年々増加傾向を見せています。
スイスでの在留邦人の結婚・離婚、そして高齢化についてお伺いさせていただきます。
Q : スイス人と日本人の結婚・離婚の傾向について教えてください。
婚姻件数は確かに増えていますが、離婚届も年に何件かあります。離婚で留意すべき点として、スイスで離婚が成立した後、日本側にも離婚届を提出しなければなりません。
届けていない方もいらっしゃるようですが、提出しないと(日本の戸籍上では)既婚者ということになり、再婚ができません。日本側にも提出することを忘れないようにして下さい。
Q : スイスで母子家庭になった方に、留意点があれば教えてください。
一方の親の同意なく子どもを出入国させることがわかった場合、出入国が許可されない可能性もあります。ハーグ条約もありますが、出入国審査時のトラブルを避けるためも、あらかじめ同意書の持参をお勧めします。
Q : 在スイス邦人の高齢化について、何か対策はありますか。
大使館でも在スイス邦人の高齢化については、議論すべきトピックになっているのは間違いないですね。スイス国内でお子様やご家族がいらっしゃるのであれば問題ないかもしれませんが、おひとりの方については日本の家族との連絡や帰国支援の要請などがあれば、大使館でも対応致します。
他方、高齢化に関連し、近年、重国籍のお子様が成人され、ご結婚やご出産をされても、日本側に届出がなされていないケースが見られます。お子様が日本国籍を有する場合、日本の戸籍法に基づく届出も必要であると伝えていくことが重要です。
Q : 読者に何かアドバイス、メッセージをお願いします。
スイスにお住まいの方は、現在お住まいの地域にできるだけ溶け込み、コミュニケーションを取りながら現地の方々との良好な関係を築いていただければと思います。
ご旅行で来られる方については、渡航前に最新の安全情報をチェックして、どんな被害が発生しているかを知っておくだけで、防げることはあるかと思いますので、ぜひ、安全情報のチェックを心がけてください。
さらに、スイスの医療費はとても高額です。クレジットカード付帯の保険金額では不足するケースが多く発生しています。十分な海外旅行保険に入って、安心な旅行をなさってください。
<取材協力・お問い合わせ先>
在スイス日本国大使館
Japanische Botschaft in der Schweiz
Engestrasse 53, 3012 Bern
+41 (0)31 300 22 22
www.ch.emb-japan.go.jp
取材・撮影:Yuko Kamata
編集:Yuko Kamata, Yoriko Hess
この度は色々ありがとうございました。スイス情報.comスタッフ一同、城戸さんの益々のご活躍を心よりお祈り申し上げます。