州で異なる教育制度。フリブール州ではこのような感じ
スイスでは州によって税率や義務教育はもちろん、滞在許可証や運転免許取得にいたるまで、多くの制度が異なります。教育面でも様々な違いがありますが、今回はフリブール州のフランス語圏の公立高校について、体験も交えて少し詳しくお話したいと思います。
日本の高等学校は3年制が多いですが、フリブール州の高校は4年制です。まず中学3年生の6月末に義務教育である中学校における最終試験があり、その試験の結果が一定基準をクリアしていた生徒は7月初めに卒業証書を受け取ることができます。その学生だけが、高校に正式に入学する資格を得ることができるのです。
そして、高校は「ジムナジウム」「商業コース」「一般文化コース」の3部門に分かれています。「ジムナジウム」とは、卒業後に大学など高等教育を受けたい学生が進むコース。中学校で「プレジムナジウムコース」だった学生は、一定の成績を保っていれば3コースの中からどれでも希望するひとつに進む事ができます。ですが、プレジムナジウムではなく他のコースだった生徒は、中学の成績が一定の平均点であることを条件に特別な試験を受け、パスできた場合には上の学校に進む事ができます。
つまり、大学に進学したいのであれば、逆算して、中学校から「プレジムナジウムコース」に入っていることが望ましいとされます。
ジムナジウムの1年生・前期の時間割
フランス語圏の場合となりますが、高校ジムナジウム1年目の科目はこのような感じで、週に計33時間の授業となります。
言語: | フランス語(国語として) ドイツ語(第二外国語として) 第3言語は英語/イタリア語/ラテン語からひとつ |
理系科目: | 数学・生物学・化学 |
人文科目: | 歴史・地理 |
美術科目: | 美術/音楽 |
その他必修: | IT・経済法律・宗教化学 |
スポーツ: | 体育 |
その他: | イタリア語 |
とても厳しい進級条件
フリブール州の高校は勉強が特に大変だということを何度か耳にしますが、宿題・課題も多く出され、レベルは一層難しく高くなってきているようでした。試験は6点満点で評価され、年間を通した平均点が4.0を維持できないと、次の学年へは進級出来ません。2以下を取った場合も同様で進級ができなくなります。とても厳しいので、試験前の予習・復習は欠かせません。高校へ進む事を選んだ限り、それに伴う予習・復習、試験の成績を保つことは個人の責任になりますので、授業中におしゃべりが多いとか話を聞いていないとかを教師が細かく注意することもないのだとか。
気になる学費や諸費用はどのくらい?私服でノートPCも必要!
フリブール州では義務教育中はバス・電車の定期代や、学校で使用する本など教材費用は無料だったのですが、高校では個人負担にかわりました。
内訳としては、まずは高校への入学登録費用が100フラン(2020年1月時点では約11,200円ほど)。そして学費が年間375フラン(同じく42,000円ほど)。日本では2019年の情報で、公立高校の平均が年間45万円強とされていますので、それと比べると低めといえそうです。
他に、年初めには教科書・辞書・美術の教材費などの購入費用が約400~500フランかかりました。体育で使用するマウンテンバイク・テニスラケット・シューズなど必要に応じて購入する費用も必要です。
2020年からは、高校1年生からすぐに個人用のコンピューターが必要となり、タッチパッド操作が可能なノートパソコンを購入しなくてはならず、パソコンのサイズまで指定されていたのは驚きでした。
交通費としての定期代は、住む場所によっても多少違いがありますが、例として2019年のとある公立高校の学生は定期代が月85フラン、またはSBBが発売している年間を通して有効な定期ですと3ヶ月分割引となり765フランだったそう。
フリブールの公立高校に制服はなく、服装・リュック・ハンドバック・お化粧などは個人の自由です。制服代はかかりませんが、若者に人気のファッションにはやはり出費が多いです。
また、携帯電話でクラスや宿題についての連絡などを送り合う事が多いので、携帯は必要不可欠です。学生向けプランなどを利用することで安く抑える工夫が必要でしょう。多くの通信サービス会社では21才以下向けのリーズナブルなプランを用意しています。
公立高校のランチ事情は?
授業は基本的に8:10〜16:40ですが、それぞれの生徒の受講科目の違いによって、その日の開始時間や終了時間、昼休み時間が変わります。
義務教育である中学校に通う期間は、2時間ほどあるお昼休みに自宅に帰って食べられない生徒はランチに困ることもあったと聞きます。両親が共働きだったり、帰宅の電車やバスが午後の授業に間に合わない(遠いところから通う)生徒もいるためなのですが、そうした場合に学校に電子レンジがないところでは、朝自宅から用意して持ってきた冷たいサンドイッチなどを食堂で食べるしかないという状況もあるようでした。ですが、この高校では学生食堂を利用してあたたかい料理を購入したり、持参したお弁当を食堂備え付けの電子レンジで温めて食べたり、校外に出て外食をするなど、どれも個人の自由です。
高校でも、生徒の年齢には幅がある
日本では高等学校に通うほぼ全員が中学卒業後すぐに入学するため、15〜18歳の生徒しかいない学校が多い印象です。スイスでは、高校進学前にスイス国内で多言語のカントンへ国内留学をする生徒がいたり、ヨーロッパ内で国外留学をしたり、一度職業訓練などで学んでから新たに進路変更をしたという20歳以上の学生もいます。ほとんどが16歳以上ですが、逆に小中学校で飛び級をした14歳の学生もおり、日本よりも幅広い年齢構成になっているのが面白いところ。
自己責任!?喫煙やアルコールなど、自由も幅が広い
そのため学校内に喫煙所があるというところは、義務教育とは大きく違います。親としてはせめて学内は禁煙にして欲しいと思いますが、年齢に応じて個人に認められた権利を学校が妨げることはできないということでしょうか。
また、新学生の歓迎パーティーが、夜、バーのような場所で開催された事も日本の公立高校とはかなり違います。ただし、アルコールのある場所なので、そのとき参加可能なのは一部のアルコールが飲める16歳以上の学生で、飛び級した子など15歳までの子は参加できず。
高校の校則はかなり自由といえますが、高等教育を受けたい学生のみが進学することを考えると、成績を維持するのは個人の責任ということで、学生のレベルや志はとても高く感じることが多いです。
スイス公立高校ジムナジウム、1年生の後期も気が抜けない!
フリブール州の公立高校2年生からは、更に選択科目が増えてきます。その準備段階として、高校が始まって半年すぎた11月末には、2年生からの選択科目についての説明会が学生向けにありました。また、担任教師・本人・親の三者面談では、前期半年間の成績を見たうえで、2年生からの選択について相談する事ができます。
1年生からは、特別選択枠でラテン語初級/上級またはギリシャ語・スペイン語、物理+応用数学、生物学+化学、エコノミー&法律などからも科目を選べましたが、2年生ではさらに増やすことができます。
なお、各教科の試験は6点満点ですので、平均点が4.0に満たない場合は、留年も含め、今後の学習・進路への取り組み方が協議されることとなります。本人の成績・興味に合わせた担任教師のアドバイスはとても役立つもので、本人の考えを重視した内容でした。
毎週のように各科目の小テストやプレゼンテーションなどの課題があり、平均点を達成し2年に進級するためには、冬・春休み中も完全に休むことはできません。
バイリンガル州であるフリブールならではの特徴
ほかに挙げられる特徴として、フリブール州ではフランス語圏・ドイツ語圏が半々なので、フランス語圏での「バイリンガルコース」があります。
このコースを選んだ生徒は、2014年からは1年生の経済・法律の入門コースをドイツ語で受けねばならず、これは国内でのバイリンガルの成熟度を獲得することを目的としています。 この選択は、家庭環境などからすでにバイリンガルである学生を対象とするものではありませんが、このコースを選択するには、ドイツ語で5.0に近い成績である必要があります。2年目は、さらに歴史・地理など他の科目もドイツ語で受講することになります。
さらに、高校入学時にすでにドイツ語圏にある大学進学を希望している場合には、フリブールのドイツ語圏の高校へ進むことも可能になっています。
ジムナジウムを修了する利点とは?
4年間終了後にジムナジウム修了証を所持できるということは、原則として、希望するスイスの大学はどれでも、またはスイス連邦工科大学の好きな学校へ入学する扉が開かれているということなのです。すでに相当レベルの学力があることが証明されているため、 大学受験は基本的に免除となります。
ただし、一部の学部では、例として入学の際にラテン語など特定の分野の知識が必要になるので、高校1年生時点で将来どの学部方面に進学したいのかを見極めて学習を進めていくことが大切になります。
4年間という十分な期間があるからといって進路を決めずにゆったりと構えすぎ、高校生活の後半や最終学年までに具体的な将来の行き先を決められない場合には、進学に必要な履修科目が足りずに留年して再度必要科目を受講する羽目になるかもしれません。そういう意味では「とりあえず」の軽い気持ちで高校のジムナジウムに進むことはいい案とはいえません。ある意味とてもシビアですが、アカデミックでさらに上を目指すという明確な目標がある学生には、適度に自由があり適度に引き締まざるを得ないこの環境は、切磋琢磨できる、とても素晴らしい選択といえるでしょう。