春が来ると、家庭菜園の季節のはじまり。そろそろ「何を植えようか」と思い巡らす頃です。
限られたスペースを持つ人たちの間でも、いろいろな方法で自宅や市民農園で野菜や果物などの栽培が楽しまれています。今回は、そんなスイスの家庭菜園の情報をご紹介します。
| 庭がなくても楽しめる、スイス流の家庭菜園
チューリッヒなどの都市に近い地域では、庭がある家に住む人たちは限られています。その多くは中層階のアパートで、共有部分にあるのは芝生や子ども向けの遊具エリアのみ。スペースはわずかとはいえ、バルコニーつきの部屋なら、プランターで野菜を育てたり、花や観葉植物の植木鉢を置いたりもできます。
広いスペースで本格的な家庭菜園を楽しみたいのであれば、「シュレーバーガルテン(Schrebergarten)」と呼ばれる、市民農園を利用する手もあります。利用者の国籍はスイスに限らず、スペイン、ポルトガル、セルビアなど様々。小さな庭小屋やテーブル、家庭菜園が並ぶ光景を見たことがある方もいるかもしれません。
| 野菜作りが広げるコミュニティの輪
スイスではビオ製品を始め、安心・安全な野菜への需要は高く、自分たちでも作ってみようという動きが高まってきています。
例えば、ジュネーヴ(Genève)では、2015年、スイス人の母親たちが「ジュネーヴ・クルティヴ(Genève cultive)」という団体を設立。近隣に散らばる家庭菜園やコミュニティガーデンなどの情報を集めてウェブサイトにまとめ、様々な交流イベントを企画しています。
設立時から関わったマリサ・サラディン(Marisa Saladin)さんは、「野菜作りの情報交換だけでなく、個人的な話をしたり、循環型農業について語り合ったり、友人の輪も広がったりします。子どもたちにも、自分たちが食べる野菜がどこからくるのかを知ってもらいたい」と話していました。
| どんなものが植えられている?
自宅の庭でよく植えられているのは、トマト、きゅうり、サラダ菜。ズッキーニやパプリカ、インゲン、かぼちゃ、スイスチャード、コールラビ、芽キャベツ等も人気です。ブラックベリーなどのベリー系、レモンバームなどのハーブ類が茂っている家も見かけます。
新鮮なうちにサラダにしたり、ハーブティーを作ったり、収穫が多ければ、トマトソースやジャム等の保存食品を作る家庭も多いようです。
お国柄も出るようで、スイス人に人気なのはリーフレタスやバジルなど。イタリア人はトマトがマスト。日本人の中には、枝豆、大根、紫蘇などを育てている人たちもいます。
| 不安定な天候との闘い
家庭菜園にまつわる大きな悩みといえば、予測不可能な天候。ここスイスも同様で、毎年必ず収穫が約束されるわけではありません。その原因は、ひとえに「スイスの予測不可能な天候」にあります。
特に4月はドイツ語でAprilwetter(「四月の天気」を意味する)と呼ばれ、天候がめまぐるしく変わりやすいことで有名です。急激に気温が下がり、霜がおりたり、雪が降ったりします。
一例ですが、ある年は、5月に苗を植えたあとも安定した天候が続きました。夏もよく晴れて暑い日が続き、トマトやきゅうりも次々と収穫でき、家庭菜園の醍醐味を味わえました。
その翌年の6月は、雨で肌寒い日がひと月あまり続き、土が湿った状態。せっかく植えたかぼちゃの苗も育たず、花を咲かせる前に枯れてしまいました。
| 4月は土の準備と低温対策
このような変わりやすい天候のもとで、どんな庭仕事をしたらよいか、園芸店を経営するミハエル・ケルン(Michael Kern)さんに聞きました。
「いまできるのは、庭の土の準備です。一番いいのは、まず古い土を少し耕しておき、柔らかくしてから、新しい土を加えて混ぜること。土に空気が含まれるので、根がはりやすくなりますよ。こうして土の準備ができたら、すぐ苗を植えてOKです」
ただ、サラダ菜やハーブ類などの苗にとっては、4月上旬の気温はまだ寒すぎるそうで、「あと1~2週間程は、外に出すのを待った方がいいでしょう」とアドバイスがありました。
特にサラダ菜は、寒の戻りがある5月中旬ごろまでは、ビニールハウスや屋根の下で管理した方がいいようです。
5月以降も、気温が下がったり、雹が降ったりすることがありえるのがスイス。その場合、せっかくなった実を傷めてしまうこともあるとか。トマトなどは、小さい温室を作ったり、購入したりして、覆っておくのも一案でしょう。
| チューリッヒの街中でも苗が手に入る
スイスでは、4月以降、「苗の市場(Setzlingsmarkt)」が各地で開かれます。チューリッヒ市の園芸科・シュタッドゲルテネレイ(Stadtgärtnerei)でも、4月27日(金)~5月5日(土)の間、70種類を超えるトマトを始め、バジルやミントなどのハーブ類、ズッキーニやナス等の地中海野菜の苗が売られます。
園芸科のダニエル・ハンジン(Daniel Handschin)さんは、苗から買うことのメリットについて、こう語りました。
「種をまいてから苗に育てるまでの間は、室内の温度管理や水やりなど、きめ細かな配慮が必要です。様々な条件のもと、うまく育たないという結果になってしまうことも。そうしたプロセスを省くので、野菜作りが初めてという人にも向いていますよ」
おすすめは、育てやすい点から、サラダ菜、コールラビ、トマト、赤カブだそう。水菜や北海道カボチャ、ワサビなどの日本野菜の苗も販売予定とのこと。曜日によって売られる苗の種類が異なりますので、ウェブサイトで詳細をご確認の上、お出かけください。
春が来て、気持ちもウキウキしてくる4月。お散歩を兼ねてスーパー、園芸店やマーケットをめぐり、苗を買って、家庭菜園を始めてはいかがでしょうか。自分の庭でとれた野菜の味は、やはり格別です!
<取材協力>
Zürich Stadtgärtnerei
Stadtgärtnerei 27, 8055
Sackzelg 25, 8047 Zürich
www.stadt-zuerich.ch
苗の市場の日程についてはこちら
Genève Cultive
www.genevecultive.ch (仏)
執筆: Asuka Shimoda
編集: Yoriko Hess,Yuko Kamata
写真: Yuko Kamata, Asuka Shimoda