芸術的な衣装をまとった精霊の歌声と、大自然が導く明るい新年

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 厳しい冬を強いられていた昔の農家では、その年にあった苦しい体験を糧にしつつも希望に満ちた新年を迎えることが重要でした。

 今回は、自然の精霊が美しいヨーデルとともに、住民をより良い新年へと導いてくれる伝統的な年越し行事「シルベスタークラウゼン(Silvesterchlausen)」をご紹介します。

| シルベスタークラウゼンとは

 スイス東部のアッペンツェル・アウサーローデン準州で開催される年越し行事です。シルベスター(Silvester)はドイツ語で「大晦日」、クラウゼン(Kläuse、Chlauseの複数形)は、「聖ニコラウス(サンタクロースと同義)」なのですが、ここでのクラウゼンは「精霊」という意味で、使われています。

 開催日は、グレゴリア暦での大晦日(12月31日)と、ユリウス歴(旧暦)での大晦日(1月13日)の2日間。クロイゼが村中を練り歩き、 その年にあった悪いものを祓い、明るく年越しをして賑やかに新年を迎える、という大切なお祭りです。約200年の伝統がありますが、一説によると1663年が始まりとも言われています。swissjoho-2976-2

| 3種類の個性溢れるクラウゼたち

 それぞれが独特な衣装、仮面、被り物で全身を覆い、大きな鐘を背負って村中の家々を訪ねます。 手の込んだ芸術作品とも言える装いは、このお祭りを見る醍醐味の一つとなっています。

美しい(シューネ、Schöne
 鮮やかな色を組み合わせた華やかな装いと、美しく施された化粧が特徴。男性版と女性版があり、どちらも優雅に仕上げられています。

醜い(ヴュェシュテ、Wüeschte
 自然素材の松の枝や苔を全身にまとい、自然の大切さと力強さを表しています。下記の美しくて醜いタイプとの違いは、仮面が恐ろしげな顔つきで作られている点です。

美しくて醜い(シューヴュェシュテ、Schö-Wüeschte
 仮面は「美しい」に近い、衣装は「醜い」に近いスタイルをしており、全体的に緑色をしています。被り物に載せられているのは日常生活を表した模型で、醜いタイプには載っていません。swissjoho-2805-2

| 自然と結びついた強い祈り

 同種のクラウゼが各々6人前後の一団となって、朝6時過ぎから村中の家々を訪ね、玄関先で「自然のヨーデル(ツァウエルント、Zauernd)」を歌います。

 クラウゼはみな男性なのですが、静かで高く澄んでいるのに力強く、心にまっすぐ響いてくる美しいその歌声に誰もが驚かされ、心動かされることでしょう。

 その昔、自然は味方でもあり脅威でもあった頃、農家の人々は辛い思いも抱えていました。その思いが精霊の歌声によって、受け止められ、昇華され、明日への力へと変わっていった過程を、私たちにも体験させてくれるかもしれません。swissjoho-2971

 歌の後は、背中の大きな鐘を全身を震わせて鳴らし、区切りをつけ、また次の玄関先へと向かいます。見るからに重そうな衣装とは裏腹に、なんとも軽やかな動きと足取りは目を見張るものがあります。

 そんな躍動的なクラウゼですが、片手をポケットに入れているのをご存知ですか?これは、手がかじかんでいるからではなく、礼儀正しい由緒ある姿勢なのだそうです。

| 伝統を受け継いでいくための労力と意志

 一時は人手不足などによって中断の危機に瀕したこともありましたが、伝統の大切さと、生活に根付いたこの行事の存在意義が見直され、継続されることになりました。swissjoho-2843

 この行事に費やされる労力と時間は想像以上です。というのも、 衣装や被り物を作るのに最低100時間、場合によっては3年もかかるのです。近くで見ると、特に被り物に精巧で美しい手作業が施されていて、それを見るとお祭りに対する祈りに近い思いを感じずにはいられません。

 また、重さは被り物だけで約8kg、衣装や鐘や杖などを含めると合計20〜30kgという大重量。クラウゼになるための特別な体力テストがあり、それに合格しないとクラウゼは務まらない、というのにも頷けます。

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 子供たちだけで組まれる愛らしいグループも見所です。年端のいかない子供たちが誇らしげに、それでいてどこか億劫そうに歩いている様子は大人たちを楽しませてくれる一幕。

 このように、子供の頃から伝統に親しみ、大人になっても伝統が身近にあることで、労力を惜しみなく注ぐことを繰り返し、風習が次世代に受け継がれていくのでしょう。swissjoho-2965

地元民のための行事だからこそ、行く価値がある

 現在では、ウルネッシュ(Urnäsch)、シュタイン(Stein)、ヘリザウ(Herisau)、フントヴィル(Hundwil)、ヴァルトシュタット(Waldstadt)などで行われています。

 地元民のための行事なので、どのクラウゼがどこに出没するかなどの詳細は公表されません。通常、朝6〜7時から各クラウゼの一団が農家を訪問し、その後、全3種類のクラウゼンが村の駅前通りを練り歩きます。

 観光するには情報が足りない感もありますが、ぜひとも体験していただきたいスイスの伝統行事の一つです。雪の中でも晴れたお天気の下でも、自然溢れる丘に立つクラウゼの歌声と装い、そして軽やかな動きが心を洗って、気持ちの良い新年へと導いてくれることでしょう。swissjoho-2784


※ 移動サービス
ウルネッシュ駅前からクラウゼがいる農家まで、ワゴン車での移動サービスあり。(*2018年1月時点、料金 一人5フラン) 開催年によって、異なる場合があります。

※ 昼休み
開催年や開催地域によって、クラウゼが11時半から14時くらいまで、昼休みをとる場合があります。


同行事に関する詳細は、当社のイベントカレンダー、または下記のホームページで地図や休憩場所の案内、時刻表などがご覧になれます。

スイス情報.com イベントカレンダー
Silvesterchlausen

<お問い合わせ>
アッペンツェル観光案内所
Appenzellerland Tourismus AR
Bahnhofstrasse 2 9410 Heiden
+41 71 898 33 00
www.appenzellerland.ch

編集:Yoriko Hess, Yuko Kamata
写真:Yuko Kamata