スイス連邦ヨーデルフェスト〜人と人を繋ぐヨーデルの力 〜

jodelfest-7114-2  記念すべき第30回「スイス連邦ヨーデル・フェスティバル」が開催されました。ここでは歴史溢れる魅力的なブリーク・グリスの町に集まったヨーデラー、旗振り士、アルプホルン奏者たちが多くの観衆を前に演奏する中、一際目立ったヨーデルに着目しながらご紹介していきます。

| 橋の役割を果たす、ブリーク・グリス(Brig-Glis)
  フランス語圏とドイツ語圏に分かれるヴァリス州(独: Wallis,仏: Valais)にあるドイツ語圏の町、ブリーク・グリス。アルプスの中央に位置し、 町の由来となる、北と南を繋ぐ「橋」の役割を果たす地域です。

  北にはローヌ谷(Rhonetal)とユネスコ世界遺産のアレッチ氷河(Aletschgletscher)、南にはイタリアの国境へ続くシンプロン峠(Simplonpass)、そして温暖で乾燥した気候を運ぶアルプスの牧草地。この地理的な要因から、ここで話されるスイスドイツ語は(Walliserdeutsch)は独特な方言で、スイス人同士でも通じにくいと言われています。

  また、中世の歴史的建造物が数多く残る町で、このイベントが開催されたのも大きな魅力。特に中世の歴史的建造物が数多く残る旧市街の路地裏や石畳の細い道のあちこちで行われた、ヨーデル、オコーディオンやアルプホルン奏者による生演奏は躍動感を与えるほど。響き渡るヨーデラーの美しい歌声と民謡楽器の音色が融合され、特別な空間を創り出していました。

jodelfest-7306| 期待をはるかに超えた結果
  開幕の喜びに満ち溢れた雰囲気の中で行われた式典を皮切りに、30度を超える真夏日となった土曜日と日曜日は多くの来場者で賑わい、フィナーレのパレードも大成功を収めました。

  今回、2011年に開催された東スイス・ダヴォス(Davos)に参加できなかったフランス語圏のヨーデル団も多く見かけ、東スイスとは一味違う活気に満ち溢れていました。土曜日の来場者数が20万人で当初見込んだ3日間の来場者数15万人を土曜日の1日で達成したことにより、2008年ルツェルン(Luzern)での同イベント来場者数(30万人)に近づいた結果となります。

| スイスがひとつになる日
  スイスで言語、風習や文化が異なる26の州が一つになる機会は決して多くないでしょう。普段交流のない地域や州の人たちとこのイベントを通して一緒に楽しさを分かちあうことができるのが、この連邦ヨーデル・フェスティバルの素晴らしさです。

  同イベントの副代表、ピエール アラン・グリヒティング(Pierre-Alain Grichting)氏は、「ヨーデルとアルプホルン、旗振りの伝統は、スイスの全地域と社会的な階層、高齢者と若者、山と谷、都会と田舎の人々を一つにまとめます。レシュティの溝(Röstigraben)など知りません。異文化の壁を持つドイツ語圏とラテン語圏を繋ぐ架け橋なのです」と述べています。※ レシュティの溝は独語圏・仏語圏の間の「深い溝」という例え。jodelfest-7211

  また、連邦内閣のアラン・ベルセ(Alain Berset)氏もヨーデルは「結びつけるもの」で、音色、人々、全世代、過去と現在、そして地域を結びつけ、お互いの文化に対する理解も深めると褒め称えています。

 「一緒にヨーデルを歌うと、言葉がなくてもいつも一緒であると感じます。一緒に音楽を演奏するには感情を込めることだけ、典型的なスイス式のヨーデルの歌い方は合唱で一緒に歌うことです」

  と同氏が言うように、好きな時に好きな場所で歌い演奏する。そして、他のグループが歌い始めたら、終わるまで待つのが暗黙のルール。また、歌詞を知っていれば一緒に歌っても構わないとあって、あっという間にあなたもヨーデルの一員になれるのです。ヨーデルの魅力が大きく開放され、観客と演奏者が一体となったヨーデルを存分に体感できます。jodelfest-7105-3

| 今年も日本勢が参加、高評価を残す
  ヨーデルの歌声に魅了されているのは、スイスだけではありません。今回も日本から男性1名、女性3名、合唱グループ1団がコンテストに出場しています。このコンテストは1級から4級までの絶対評価を用いて行われ、リズムや音程を最重視しながら、音楽性や言語(スイスドイツ語)なども評価の対象となります。

  日本から参加したヨーデル歌手の北川桜さんもその一人。日本を拠点に、スイス、オーストリア、ドイツなどでプロとして幅広くご活躍中です。スイスでは2008年から同主催おける全ての大会に参加して1級を収得し続けています。

  しかし、特に方言が地域ごとで異なるスイスドイツ語で歌うことは、決して日本人にとって容易ではないでしょう。北川さんがいつも心がけている「本物のヨーデル」を歌うために、スイスドイツ語を習得されてからも何度もスイスを訪れては研鑽を積まれているとか。そんな真剣に取り組む彼女の姿が多くのスイス人たちに高く評価され、地元新聞などで大きく取り上げられています。※ 写真:Walliser Bote新聞

| ヨーデルが持つ3つの力
  今回、スタッフが現地で異なる州のヨーデル歌手たちにヨーデルについてお話を伺い、ヨーデルが持つ力がたくさんあることに気づかされます。そのうちの3つをご紹介しましょう。

伝統文化と絆の力
  ウーリ州の20代の男性たちは、ヨーデルを「伝統文化」と位置づけ、祖父や両親を含めるヨーデル歴50年のベテラン団員と共に10年以上歌っています。もともと農業を営む地域では、地縁や血縁的に人と人の結びつきが強いといわれていますが、合唱でハーモニーを作り出せるのも家族や仲間との連帯感や固く結ばれた絆があってこそ。ヨーデルを通じて、伝統文化と絆のつながりが伺えます。

記憶を蘇らせる力
  アッペンツェルの音楽グループがスイス発祥のアコーディオン(Schwyzerörgeli)を使って歌い始めると、故郷ヴァリス州を離れて別の州に住む50代の女性は「この曲を昔お母さんがよく歌ってくれた。」と興奮しながら話し、一緒に歌い始めました。これは音楽全体に通じることですが、ヨーデルも家族と楽しく過ごした幼少時代の記憶を蘇らせる力があります。

転機を引き寄せる力
  幼少時代から歌うことが好きというデンマーク育ちの50代の男性は、デンマークから母親の故郷、オーストリアの中央東アルプス山脈に近い村に移住。しかし、ヨーデルクラブが見つからず、途方に暮れていた彼に転機が訪れます。それはスイスでヨーデルコンサートを見に行った日に初めてヨーデルを聴いた時、スイスに移住すると決意したそうです。

  現在彼はシュヴィーツ州のヨーデルクラブに所属、今回のヨーデスフェストでは念願の参加を果たしています。

  一般的に音楽は人を感動させ、気分を穏やかにし、癒してくれる働きを持つと言われています。ヨーデルも同じく、「嫌なことがあってもヨーデル独特の音色を聴くと、平和で安らいだ気持ちになるんだ」と、シュヴィーツ州出身の50代の男性が微笑みながら話してくれました。
jodelfest-7234

| ヨーデルマインド 
  では、上記で述べたヨーデルが持つ力は何が原型なのでしょうか。歌う時はただ歌うのではなく、スイス人のヨーデルマインドを理解しながら歌うことを心がけていると、北川さんは述べています。

  ヨーデルマインドとは、アルプスの山岳地帯での温度差や冬の厳しい環境で、質素に暮らすスイス人たちの考え方や生き方、そのものを表しています。

  それがよくわかるのが、ヨーデルの歌詞。美しい自然や人生の生き方などをテーマに創り上げることが多く「本当に辛い時にこそ、辛いと嘆くのでなく、綺麗な景色を見ながら生きていられて(私は)幸せだ。次はきっとよくなる」という前向きな気持ちを込めて歌うことが大切だと言います。jodelfest-7315-2

| これからの強い結びつきを深めて
  このヨーデルマインドが作り出す力が大人から子供へと受け継がれ、国籍や言葉、地域に関わらず、強い結びつきがこれからもどんどん深まっていくと良いですね。

  今回、橋の役割を果たすブリークで、このヨーデルフェストが異なる州を繋ぐ架け橋となって人々の心を動かした様子をお伝えしました。スイス情報も日本とスイスの架け橋となって、現地から配信していきますので、今後ともご愛読のほどよろしくお願いします。

※ 第31回のヨーデル・フェスティバルは、2020年6月26日~28日バーゼル(Basel)で開催予定。

Jodelfest_youtube_button

<取材協力>
北川 桜さん オフィシャルサイト
www.h6.dion.ne.jp/~edlweiss/sakura/

<情報提供>
Jodelfest_2017_logo

Eidgenössisches Jodlerfest 2017
Postfach 3900 Brig
www.jodlerfest-brig.ch

編集:Kayoko Nagano, Yuko Kamata, Yoriko Hess
写真:Yuko Kamata

 


コメントを投稿する