春の訪れを祝う謝肉祭、その歴史と現在の姿に魅せられて

 

fasnacht-4288-3 本来、キリスト教のカトリック圏で行われる謝肉祭、スイスでは4つの語圏と州がカトリックかプロテスタントかによってそれぞれの特徴が現れます。今回は、この祭りの起源や歴史に触れながら、スイス・ドイツ語圏で有名なバーゼルとルツェルンの謝肉祭をご紹介します。

| 謝肉祭とは

 英語でカーニバル(Carnival)、ドイツ語でファッシング(Fasching)やファスナハト(Fasnacht)、フランス語でカルナヴァル(Carnaval)、イタリア語でカルネヴァーレ(Carnevale)といいます。

 本来はイースター(復活祭)前の「四旬節」に備え、欲望を忘れて脂肪分の多い物を食べ、お酒を飲み、歌って踊って賑やかに騒ごうというお祭りでした。

 カーニバルの語源はラテン語のcarne(肉)、levare(別れを告げる)、ファスナハトの語源は「断食前の夜」、あるいは古語で「豊穣」だと言われています。

The Fight Between Carnival and Lent (1559) by Pieter Bruegel

| 起源は古くローマ時代
 起源はローマ時代の冬至祭。当時は農耕祭や農神祭だったのが、南欧ではカーニバルになり、北欧ではクリスマスになったという説があります。

 他にも、ゲルマンの生贄を捧げる伝統行事、異教徒の春の祭事、異教徒が悪霊を祓うための伝統行事、と主張する学者たちもいるように、宗教の影響を強く受けているお祭りです。

| 現在の謝肉祭
 宗教色は薄れたものの、悪魔を追い払って訪れる春を祝い、恐ろしい仮面や派手な衣装を来て街中を練り歩き、大音量の音楽に合わせて歌い踊る、街をあげての大イベントになりました。

 共通点は、老いも若きも、家族や友人たちと思い切り楽しむ姿勢です。仮装のための衣装は1年かけて考え、手作りやアレンジをし、個性的かつ独創的なものを作り上げます。

 謝肉祭は、スイス人が時間をかけて準備し、普段は控えめでおとなしい彼らが己を忘れて大はしゃぎする、祖父母から孫まで一緒に楽しむ伝統行事なのです。

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| 仮装はベネチア発祥
 仮装の始まりは18世紀のイタリア・ベネチアで開催されていた仮面舞踏会。作家・塩野七生さんの『海の都の物語』によると、この期間は老若男女の区別も貧富の差もなく、階級の差までが取り払われ、誰もが禁欲を忘れて熱い夜を過ごすことが赦されていました。

 そこで大切だったのが素性を隠す仮面であり、一夜の遊びを「いたずら」とみなしていたことから、現在でも「いたずら」として紙吹雪を投げつけたりするのかもしれません。

| ライン川沿いを中心に伝搬
 中部ヨーロッパを南北に流れるライン川は、沿岸地域における重要な交通路。古くは、文化が川に沿って伝搬し、沿岸を中心に街が繁栄していきました。そのためか、謝肉祭が行われている代表的な都市はスイス・バーゼルから北上し、ドイツではマインツ、コブレンツ、ノイヴィート、ボン、ケルン、デュッセルドルフ、デュースブルクとライン川流域に集中しています。
| 紙吹雪の意味
 ベネチアからデュースブルクと広範囲におよぶ謝肉祭に共通して欠かせないのが色とりどりの紙吹雪、コンフェッティ(Confetti)。語源は甘いお菓子という意味のconfectionで、古くはイタリアでお祭りやお祝いにキャンディーをばらまいていたのが始まりです。

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| スイスの謝肉祭
 スイスでは4つの語圏に加えて、カトリックかプロテスタントかの違いがあるため、州による違いも楽しめます。衣装やマスク、音楽、振舞われる食べ物にも特徴があり、その州ごとの個性に触れられるのが魅力。

 たとえば、グッゲンムジーク(Guggenmusik)という独特の音楽はドイツ語圏で発展したもので、意図的に音階を外して演奏される一風変わった音楽です。

 他にも、伝説から生まれたキャラクターや暗黙のルールが各地域に存在するので、その違いを発見するのも楽しいでしょう。

| 仮装を楽しむルツェルン (Lozärner Fasnacht)
 スイスで2番目に大きいこのファスナハトの別名は「フリッチ・ファスナハト(Fritschi Fasnacht)」。15世紀に、太鼓隊などが等身大のワラ人形「フリッチ」を引き連れてパレードをしたことが由来です。

 四旬節前の木曜日の朝5時にカペル広場で、トランペット金管楽器とドラムを中心とした演奏とともにパレードが始まります。カラフルで派手な衣装や恐ろしい仮面を身につけた人々が、グッゲンムジークに合わせて街を練り歩きます。

 ここで有名なのは、木製のお面をつけたつのキャラクターたち。伝説のキャラクター「ブラザー・フリッチ(Bruder Fritschi)」は湖から舟でやってきた彼らを歓待する人々に、お菓子を投げるところからお祭りがスタートするほど重要な役割を担っています。

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 その他にもナポレオン時代から伝わったとされる、クリエンス(Kriens)の洗濯女の魔女(Wöschwyb)、老人(die Alte)やハーブ男(Chrütermandli)などのお面もルツェルンならでは。

 また、この期間はシュナップス(蒸留酒)やローズヒップティーとプラム酒をいれたお酒、ホードリオ(スイス独語:Holdrio)を酒場で飲みながらティーバッグを天井に叩き付けて楽しみます。

 仮装した市民が旧市街に出かけ、仮装コンテストのように独創性を褒め合い、笑ったり、驚いたりしながら楽しむのがルツェルンのファスナハトの面白さです。

| 仮装を見せるバーゼル (Basler Fasnacht)
 14世紀から催されていると言われる、スイスで最大規模のファスナハトは、朝4時に開催される朝の一撃、モルゲン・シュトライヒ(Morgenstreich)から始まります。灯りをすべて落とした旧市街を、長い歴史を持つバーゼルドラムとピッコロの音色に合わせてパレード。闇に浮かぶ約200以上の灯篭はまさに幻想的で、このために夜間も特別に電車が運行するほどです。

 72時間も続けて行うパレードや、その年のスジェ(仏語:Sujets「テーマ」を意味する)に合わせた、風刺のきいている衣装もバーゼルの特徴です。

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 ここでは、仮装した人々がいろいろな物を配ったり投げつけたりするのですが、明暗はブラゲッデ(Blagette)というバッジの有無。宝石、金、銀、銅の4種類(8〜100フラン)あり、高いものを購入した人には良い何かが与えられ、買っていない人には紙吹雪だけ、というお約束があります。

 「ヴァッギス(Waggis)」という大きな鼻が特徴のキャラクターも必見です。ふさふさの髪にシャツと白いパンツ、ストライプのソックスに木靴をまとった彼らは、お菓子やオレンジをくれるふりをして紙吹雪を投げつける、というイタズラを仕掛けてくるかもしれません。

| 継承されてきた文化を次世代に繋ぐ
 古代ローマを起源とする謝肉祭は、時代や地域によって変化しながら人々の生活に根ざす重要な行事となり、今もなお進化を続け、楽しまれています。

 現在、ユネスコ無形文化遺産(Intangible Cultural Heritage)に登録を申請中のバーゼル・ファスナハト。登録が認定されれば、スイスにおけるファスナハトの歴史と文化を次世代に継承する力となるでしょう。

 大切なのは、このように人々が伝統行事を心から楽しみ、家族代々継続していくことなのだと、あらためて考えさせられます。

編集: Yoriko Hess,Yuko Kamata
撮影: Yuko Kamata

 


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