オクトーバーフェストを機に思い巡らす、ビールの歴史

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  10月上旬、各地で開催されたビールの祭典は今年も大盛況のうちに幕を閉じました。その昔、主に修道院で作られていたビール。今回はその起源と歴史、古く からビール醸造所を設置していたと言われるスイスのザンクト・ガレン修道院、そして当時のビール利用法をご紹介します。

| ビールの起源

 B.C.4000年頃、メソポタミアのシュメール人が調理した大麦のお粥に酵母が混入して偶然出来たのがビール、という説が有力です。B.C.3000年頃の粘土板に楔形文字で刻まれたビールの作り方は、ビール製造に関する世界最古の記述だそうです。

 その後、ビールはシュメールからエジプト、ヨーロッパへ伝播。B.C.1800年頃にはゲルマン人がビール製造を本格的に始め、ドイツでは1世紀頃に定着し、ゲルマン人の大移動によってヨーロッパ全体に普及していきました。swissjoho-beer

| ビールは修道院で作られていた

 中世ヨーロッパにおける修道院は宗教的な役割だけでなく、文化的、社会的、教育的、救済的、医療的な面も担っていたため、修道士は頭脳明晰な知識階級層でした。だからこそ、彼らは過去の文献からビール製造を実践し、試行錯誤を重ね、一つの技術として完成させることができたのです。修道院が所有する広い敷地内に様々な作物や薬草が栽培されていたことも、栄養価が高くて薬効と風味のある高品質のビールを作るには申し分のない条件だったのでしょう。

 6世紀以降は、ほとんどの修道院が独自のビールを作っており、9世紀頃からは防腐効果と風味付けのためのホップが使われ始め、さらに質の高い製品を生み出していきました。

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Abtei St. Gallen

| ザンクト・ガレン修道院(Abtei St. Gallen)

 スイス北東部にあるベネディクト会の修道院。612年に僧ガルスによって建てられ、11世紀まで文化の中心として栄えました。現在は修道院としての役割を終え、美しく壮大な大聖堂と修道院図書館(Stiftsbibliothek St. Gallen)がユネスコの世界遺産として登録されています。

 820年から敷地内のビール醸造所にてビール製造が行われていたという記録があることで「世界最古のビール醸造所」と称された時期もありましたが、近年ではそれを立証できないことが判明し、今では「修道院として初めて大規模なビール醸造を行った」、あるいは「ヨーロッパ初の商業規模の醸造所」として名を馳せているようです。

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Stiftsbibliothek St. Gallen

| 修道院で醸造されていたビール

 当時の同修道院の平面図によると、敷地内には3つのビール醸造所があり、3種類のビールが製造されていました。


1) 最高級ビール・セリア ( Celia )

皇帝や領主、高位聖職者用。原料は大麦と小麦。アルコール度数と栄養価の高い、風味のあるフルボディのビール。

2) 普通ビール・セレヴィシア ( Cerevisia )
修道士用。原料はオート麦。断食期間にも飲用を許可された栄養価の高いビール。

3) 薄いビール・コンヴェントゥス ( Conventus )
巡礼者を無料で宿泊させる際に施す、水の代わりとなるビール。(不衛生な水より、水を沸騰させて作った安価な薄いビールの方が安全であったため。)

 高位聖職者から巡礼者にいたるまで、これらのビールを1日中、定期的に飲んでいたという記述があるそうです。この量を供給するために、修道士100人以上、一般信徒200人以上、学生数100人がビール製造にあたっていたというから、その規模を「商業的」と表現しても差し支えないのでしょう。 swissjoho-8004-2

| 当時のビールの利用法

 当時は、栄養剤、薬、治療薬としても利用されていました。寒いときは体を温めたり、修道士の断食期間はビールからビタミンB群、ミネラル、たんぱく質、ポリフェノールなどを摂取しながら、体調を管理していたそうです。傷にビールを塗る、ウィルス性と思われる症状には飲用する、などビールの殺菌効果にも着目していました。

 また、伝染病から人々を守るものとして崇められ、「命の水」や「神の恵」という名の下に一般市民にも広められるようになったビール。3つの醸造所が保有していた穀物所蔵庫は、「神の祝福がいつでもビールにありますように」という意味をこめて、十字架の形をしていたということも、当時の人々にとってビールとはまさに「命の水」だったことを表しているのでしょう。

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 普段なにげなく飲んでいるビールですが、現在のクオリティーに仕上がるまでに、先人たちのどれほどの知恵や努力が注ぎ込まれてきたか計り知れません。

 また、アルコールや薬草は宗教とも密接な関わりがあり、ワインを「キリストの血」、ビールを「液体のパン」と呼んで重宝していたことも興味深い史実です。これを機に、ビールの歴史や背景について思いを巡らせてみるのも面白いかもしれません。

 

編集:Yoriko Hess,Yuko Kamata
撮影:Yuko Kamata

 


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