松本 淳さん(日本大学・生物資源科学部准教授)

 言葉や生活習慣が異なる国で仕事をするには、多くの苦労が伴います。一方で、新たな世界での挑戦は刺激に満ち、自分の可能性を広げる機会や、やりがいにもつながります。

 今月のコラムでは、スイスを拠点とする企業や公的機関などで仕事や研究に取り組み、また日本との架け橋になりたいと奔走する日本人、松本 淳さん を紹介します。


Q : 簡単な自己紹介と松本さんのお仕事について教えて下さい。

 福島県の自然豊かな環境で育ったせいか、根っからの生き物好き。それが嵩じて北海道大学獣医学部に進み、寄生虫学の面白さと出会いました。以来、寄生虫学研究に取り組んでおり、現在は日本大学生物資源科学部(神奈川県藤沢市)で獣医学生とともに、寄生虫学の教育と研究に従事しています。主な研究対象はエキノ コックスという、ヒトや動物に被害をもたらす寄生虫です。

swissjoho_interview-0188(チューリッヒ大学獣医学部メインビルディング)

ユング、レントゲンやアインシュタインなど著名な学者たちが在籍していたことでも知られるチューリッヒ大学、そこでの松本さんの研究活動について、お伺いさせていただきます。
Q : 松本さんは、今年2月に日本へ帰国されるまでの1年間、同大学の獣医学部で研究をされていましたが、そこにいたるまでの経緯を教えてください。

 実は、スイスでの研究はこれで2回目です。私の研究対象であるエキノコックスはスイスでも問題となっており、ベルン大学とチューリッヒ大学では世界をリードする研究がおこなわれています。1回目は恩師の勧めによりベルン大学で1年間。その後10年余り経って再び留学のチャンスが巡ってきたとき、迷わずスイス を考えました。ベルンも大好きですが、チューリッヒ大学でも経験を積みたいという気持ちを優先し、今回はチューリッヒへ向かうことに決めました。

Q : チューリッヒ大学が持つ研究環境について教えてください。

 チュー リッヒ大学は、同じ市内にあるチューリッヒ工科大学と緊密に連携することによって、機器や施設、サポート体制など様々な面でとても恵まれた学術環境を創出 していると感じました。また、こうした環境を求めて世界中から優れた人材が集まっており、たくさんの刺激を受けられるのも大きな魅力です。

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Q : 在籍されていた研究所について教えてください。

 私が在籍した獣医学部内にある寄生虫学研究所(Institute of Parasitology)では、4つの研究チームが活動しています。いずれも10名ほどの規模で、メンバーの国籍は多様です。私の所属チームにはスイス・ク ロアチア・ドイツ・イタリアなどの出身者がいましたが、研究所全体ではさらに多国籍で、出入りも頻繁なので私には把握しきれないほどでした。研究チーム加えて、寄生虫病の診断にあたるスタッフなどもおり、全体では50名を超える大所帯です。主要な研究テーマは、人獣に病気をもたらす寄生虫に関するものです。

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現在研究されているエキノコックスという寄生虫について、いくつかお伺いさせていただきます。
Q : エキノコックスを研究することになったきっかけ(理由)とは。

 大学進学にともない北海道に渡り、初めてエキノコックスの存在を知りました。北海道はその流行地なのです。卒論研究でエキノコックス研究チームに参加したことで、この寄生虫の不思議な性質に魅せられてしまいました。

Q : エキノコックスは、一体どんな寄生虫なのでしょうか。

 エキノコックスの成虫はキツネや犬の小腸に寄生して、虫卵(寄生虫の卵)を産出します。虫卵がキツネなどのフンと一緒に外界に出て野ネズミの口に入ると、その肝臓でエキノコックスの幼虫がガンのように増殖します。野ネズミ体内の幼虫がキツネなどに食べられると、その小腸で幼虫が成虫へと発育します。ヒトが飲食物と一緒に虫卵を飲んでしまった場合、その体内で幼虫が増殖して人命に関わる病気を引き起こすことがあります。幼虫を退治するための特効薬はありません。

エキノコックスの幼虫(日本大学・生物資源科学部より提供) 

Q : 私たちが日常生活する上で、何か心がけることは何かありますか。

 ヒトにとって危険なのは虫卵です。その卵が口に入らないように気をつけることで、感染を防ぐことができます。そのためには、流行地では野生のキツネに触らないこと、野外でとれた野菜や果物はよく洗ってから食べること(加熱調理が望ましい)などが大切です。

Q : 日本での今後の展望、または新たな研究に向けた計画などはございますか。

 私たちは、エキノコックスのエネルギー代謝の仕組みについて調べています。ヒトや動物の体内という特殊な環境で生きるこの寄生虫は、ヒトとは異なる代謝経路を使っていることがわかってきました。その全体像を明らかにすることで、治療薬開発の標的となるこの寄生虫の弱点が見えてくるものと期待しています。

日本でも同じような研究活動をされている方や、また興味のある方もいらっしゃるかと思います。その方々のためにも、お伺いさせていただきます。
Q : 研究者にとって必要なものとは何でしょうか。

 良い仕事をしている研究者の多くは、研究対象に対する愛情というか、強い思い入れを持っているように感じます。研究者の道のりはなかなか険しいので、情熱がなければ長続きせずに諦めてしまうと思います。

Q : 研究活動を通して学べることは何でしょうか。

 たくさんありますが、1つ挙げるとすれば自然の仕組みの不思議さや奥深さです。

Q :今までに影響を受けた方、尊敬する方(方々)はいらっしゃいますか。どのような影響力を与えたのでしょうか。

 これもたくさん挙げることができますが、絞るとすれば寺田寅彦です。明治時代に活躍した物理学者なのでもちろん面識はありません。しかし、学生時代に彼の著作を夢中になって読んだことで大きな影響を受け、寺田寅彦のような研究者になりたいと強く思うようになりました。自然をみつめる彼の眼には鋭さとあたたかさが共存しており、 私はそこに強く惹かれます。

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最後に【スイス情報.com】読者へメッセージをお願いします。

 人生の重要な時期に素晴らしい経験の場を与えてくれたスイスに心から感謝しています。スイスと日本の交流をさらに活性化するために、研究者の立場からお手伝いをしていきたいと思います!

 

<取材・画像協力>
松本 淳さん
日本大学生物資源科学部
http://www.brs.nihon-u.ac.jp/
Vetsuisse Faculty, University of Zurich
http://www.vet.uzh.ch/en.html

撮影・取材:Yuko Kamata
編集:Ikuyo Hasegawa

松本さん、この度は色々ありがとうございました。スイス情報.comスタッフ一同、松本さんの益々のご活躍を心よりお祈り申し上げます。

 


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